話し方の9割は、相手への配慮で決まる

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参考にした書籍『人は話し方が9割』を手に取ったのは、2020年の夏だったと思います。
仕事で愛媛県松山市を訪れており、東京へ戻るため空港へのシャトルバスを待っていたとき、近くの書店にふらっと立ち寄った際に目に留まり、レジへ持っていったのを覚えています。そのとき本に付いていた帯には、「30万部突破」と書かれていました。ところが、今Amazonで調べてみると、なんと「148万部突破」となっていました。私が購入した当時の約5倍。まさに、ベストセラーと呼ぶにふさわしい一冊です。Amazonの紹介文にも「歴史的ベストセラー」と書かれており、納得の数字です。
ベストセラーとは、今の時代に人々が何に関心を寄せているかを如実に映し出す鏡でもあります。それだけ、話し方や対人スキル、コミュニケーションに課題を感じている人が多いということの証拠でもあるのでしょう。

話し方の上手い人というのは、基本的に話しやすい人としか話しません。わざわざ話しにくい人と積極的に会話しようとはしないのです。これは勝負ごとと同じで、わざわざ負け戦を選ばないという極めて自然なことです。勝ち続ける唯一の方法は、勝てる相手としか戦わないこと。実にシンプルな話です。もちろん、話し方を上達させようと努力することは素晴らしいことです。ただ、人間同士のやり取りには相性が必ず存在します。どうしても噛み合わない相手とは、無理して話さないに越したことはありません。

それでは、「話し方に課題がある人は、どうすればいいのか?」と思われた方もいるかもしれません。少し詳しく補足しておきます。
確かに、対人スキルはテクニックによってある程度高めることができます。ですが、いわゆるコミュ力や話し方スキルといったものは、話し方全体を1本の木に例えると、あくまで枝葉に過ぎません。テクニックを磨くことは無駄ではありません。ただし、枝葉ばかりを整えても、肝心の幹が弱ければ意味がありません。その場を取り繕うことはできても、本質的な課題は何も解決されないのです。
それどころか、幹をおろそかにしていると、大事な場面――商談や告白など――で、自分の下心や意図を見透かされてしまうリスクすらあります。スケベ心は、意外とすぐバレるものです。

では、その幹とは何か?
答えは当然、相手への配慮です。本当に話し方が上手な人というのは、相手の心を読んでいます。あるいは、読もうと努めています。相手が何を望んでいるのかに思いを巡らせ、心配り・気配り・配慮ができる――つまり、余白を持って他者と接することができる人です。そういった気遣いができる人に対して、人は自然と好意を抱きます。話しやすい人とだけ話すというのは、結果的に自分自身が話しやすい人に変わり、相手にもその変化が伝播するということなのです。

相手を慮れる人は、人生の9割を穏やかに、幸福に過ごすことができる。そう私は思います。もし、あなたに相手を思いやる気持ちさえあれば、多少テクニックが未熟でも、気持ちはきっと伝わるはずです。逆に言えば、どれだけ巧みに話しても、気持ちがこもっていなければ、人の心は動かないものです。

本書にはもちろん具体的な話し方のテクニックも紹介されています。けれども、著者が伝えたかった本質は、相手へのリスペクトだと私は受け取りました。まずは、話しやすい相手とだけ話してみることから始める。そこから徐々に、察する訓練を積んでいく。そうすれば、自然とあなたの話しやすさは磨かれていくはずです。
心配はいりません。幹さえしっかりしていれば、枝葉は自然と後からついてくるものです。

参考文献:人は話し方が9割