肩書きが人を導くのではない

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先の見えない時代、チームや組織を前に導くためにはリーダーの存在が不可欠です。ただし、自分最適思考の人間はリーダーとは呼べません。現状を正しく認識する力――すなわち、チームや組織、さらには自分を取り巻く環境を詳細に把握する力――があってこそ、戦略的な打ち手を講じることができます。しかし、問題はその情報を誰のために使うのかという使い手の意識にあります。
リーダーの仕事とは、チームや組織の進むべき方向を示すことです。スケールを大きくすれば、世界の国や地域には必ず統括するリーダーがいます。国には州や県、省などにもリーダーがいて、企業や役所にも責任者がいます。人間組織の最小単位である家族にも、やはり意思決定者がいます。リーダーがいなければ、それは組織ではなくただの群れです。個人の集まりに相乗効果は生まれません。

リーダーに求められる最低限の素質は、預かる組織の全体最適を見据えて方向性を示すことです。十分条件を挙げるなら、組織の枠を超えてもう一段上の視座から方針を描ける人物でしょう。分析を突き詰めれば、複雑なものは分解され、個々の特徴が明らかになります。しかし、それを組織全体の最適に組み替えることは容易ではありません。なぜなら、私利私欲が顔を出し、我田引水になりがちだからです。従って、組織・ファーストで考えるべきところを、ミー・ファーストにすり替えてしまうのです。「まずは自分から」というポピュリズム的な思考が蔓延する中で、本当の意味でのリーダーが減っているように感じます。

ここで一度、立ち止まって考えてみてはどうでしょうか。「自分が会社のリーダー(社長)なら、どうするか」を。誰も頼んでいないのに、会社の全体最適を考えてみる。これがリーダーへの第一歩だと思います。テレワーク文化が定着して久しい今、オンライン化によって生産性が劇的に上がったという話はあまり聞きません。通勤時間や無駄な会議が削減された分、自分に投資できる時間は増えたはずなのに、です。リーダーの役職に就いてからリーダーの仕事を始めるのでは遅いわけです。名もないヒラ社員の頃から、自分が所属する組織全体を俯瞰して戦略的に行動する訓練を積むべきだと思います。そうした人こそ、いざ抜擢されたときに真価を発揮するのです。

仕事がオンライン化したことで、勤務態度や努力といった過程は評価しづらくなりました。今は、結果のみが問われる時代です。どんなに頑張っても、アウトプットとして成果が出なければ評価はされないのです。「いや、見てくれている人はきっといる」と思いたい気持ちは分かりますが、リモート画面の向こう側でそれを期待するのは難しいでしょう。だからこそ、アウトプットにこだわるべきなのです。年齢や役職に関係なく、自分の所属する組織、そしてその周囲の関係者まで含めた集合体の付加価値を最大化させるにはどうすべきかを、頼まれもしないのに考え続けられる人。その人こそが、リーダーと呼ぶにふさわしい存在です。

まとめると、リーダーシップとはポジションではなく思考の質です。会社の舵取りを任されたその日から考えるのでは遅い。むしろ、まだ誰にも注目されていない時期に、全体最適を見据える思考を磨いておくことが肝要です。リーダーに求められるのは、頼まれてから動くのではなく、頼まれなくても考えられる力だと思います。