笑いの裏にある不屈の精神

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今回は、書籍『国境』を紹介します。本文には一部ネタバレを含みますので、あらかじめご了承ください。文庫版は上下巻の2冊構成になっています。コメディとして思わず笑いがこぼれる場面がある一方で、緊張感のある展開もあり、最後まで飽きることなく読み進められる作品です。物語の舞台は、日本の隣に位置する半島の北側、朝鮮民主主義人民共和国。タイトルの「国境」とは、まさに北朝鮮の国境を指しています。

主人公は建設コンサルタントの二宮。そして、極道の幹部である桑原とコンビを組み、詐欺師を追って北朝鮮へと密入国します。同国は閉鎖的な国家であるため、日本にいる限り得られる情報は限られています。しかし、本書の緻密な情景描写により、まるで自分がその国に足を踏み入れているかのような臨場感を味わえます。

二宮の目の前で繰り広げられる出来事は、自分の身に置き換えれば決して笑える状況ではありません。それでも、彼が冷静に状況を捉え、独特の視点からつぶやく言葉には、どこかユーモラスな味わいがあります。また、本作には単なるコメディの要素にとどまらず、人間味の厚さを感じさせるシーンも多く描かれています。

桑原の言動は、現実世界では到底真似できるものではありません。しかし、彼の一本筋の通った精神には学ぶべき点が多くあります。どのような窮地に立たされても最後まで諦めない不屈の精神は、笑いの要素を含みながらも、読者の心を打ちます。また、本作は「国境」とは何かを改めて考えさせてくれる作品でもあります。これまで深く考える機会のなかったテーマに、桑原は明快な言葉で切り込みます。彼曰く、国境とは「国と国の縄張りの境目であり、民族や地形によって決まるものではなく、その時々のパワーバランスによって形を変えるもの」だと。このシンプルで核心を突いた言葉には、妙な説得力があります。

二宮&桑原コンビが活躍する作品は、『疫病神』に続くシリーズものとなっています。世知辛い世の中、時には腹を抱えて笑う時間も必要でしょう。本書は、現実から一歩引き離してくれる面白さを持ちながら、思わずハッとさせられる瞬間もある作品です。人によって気づきのポイントは異なるかもしれませんが、読む価値は十分にあります。ぜひ、ToDoリストの優先順位を上げて手に取ってみてください。

参考文献:国境