怒っても何も変わらない
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相手への配慮は、社会生活を営む上での必須スキルです。他者への思いやりや気遣いは、何も人間だけに備わった特別な機能ではありません。類人猿にも当然備わっていますし、鳥類や一部の爬虫類にもそうした傾向が見られるという研究結果もあります。よく考えてみれば、これは当たり前の話です。社会性を持ち、群れで生活する生き物にとって、仲間の気持ちを察する力は生存に関わる重要な能力だからです。「自分が何をすれば仲間は喜ぶのか」「どんな行動が悲しみや怒りを引き起こすのか」。あるいは「正しい行いとは何か」を仲間に伝える力は、集団で生きていく上で欠かせない要素です。実際、そうした社会的配慮は人間以外の動物にもわきまえられているようです。
それにもかかわらず、我々人間はたまに配慮を欠いた振る舞いをした誰かに対して、獣のようだと揶揄することがあります。が、それは今日から考え直した方が良いかもしれません。なぜなら、道徳性は人間だけの専売特許ではなく、獣と呼ばれる動物たちも持ち合わせているからです。「道徳がない生き物」などと決めつけるのは、ちょっと早計というものでしょう。それは、進化の過程で遥か昔に獲得された社会的機能なのですから。
人間が他の動物と比べて圧倒的に発達させてきた器官は脳ミソです。せっかく他の動物よりも物事を深く考えることができるのですから、この器官は使わないと損です。使わないとそのうち腐ります(たぶん)。
道徳性に限らず、思考や振る舞いは、知見を積み重ねることで高次元へと昇華していけるはずです。世知辛い世の中です。生きていれば嫌なこと、腹の立つことは次から次に起こります。特に会社勤めをしていれば、そういったことは日常茶飯事といっても差し支えありません。あなたも、今の職場で「なんだかなあ…」と感じたことの一つや二つ、あるのではないでしょうか。
しかし、どれだけ頭にきても、ヤケ酒・ドカ食い・赤提灯での管巻き——このあたりの“瞬間湯沸かし器的セルフケア”に逃げるのは得策とは言えません。なぜなら、それで根本的な課題が解決された試しがないからです。
では、どうすればいいのでしょうか?答えはシンプルです。結果には、必ず原因があります。もしあなたの中に排除したい苦痛があるならば、せっかく持ち合わせているこの脳ミソという器官をフルに活用して、解決策を考えてみてはいかがでしょうか。動物たちが群れで生活する中で道徳性を発達させてきたように、我々人間は、さらに一歩進んで、知性という武器を使って解決の道を探るべき存在です。
もちろん、それでもどうしても苦痛を取り除く方法が見つからなければ——会社を辞めるという選択肢も、立派な判断のひとつです。会社に骨をうずめる覚悟など、仕事のパフォーマンスには一切関係がありません。あなたが活躍できる場は、他にもきっと存在します。ただし、根本解決していなければ、いずれどこに行っても似たような課題に直面する日が来るでしょう。その然るべき時に備えて、知性を磨いておく。それしかないと思います。
心配はいりません。よく言われているではありませんか。「解決できる課題しか現れない」と。その言葉を信じるなら、今目の前にある課題も、きっと超えられるために現れているはずです。だからこそ、道徳性、思考、振る舞いを高次元へと昇華させていく努力を、怠ってはならないと思うのです。

参考文献:道徳性の起源:ボノボが教えてくれること