存在の意味
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今回は単に本を読んでの書評のようなかたちになります。ただ、仕事で何らかの問題に行き詰まっていたり、自信をなくしたりしている人にとって、気持ちの支えになれば幸いです。ネタバレにもなりますで、未読の方は注意してください。
初めて著者の東野圭吾さんの作品に触れたのは、「容疑者Xの献身」でした。その衝撃的な展開とキャラクターの深みは、今でも私の記憶に鮮明に残っています。その作品との比較を通じて、本書「クスノキの番人」の独自性と魅力に気付かされました。
本書は、ガリレオシリーズとは異なり、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」に近いファンタジーの要素を含んでいます。物語は、玲斗(れいと)という若者が偶然「クスノキの番人」となり、訪れる人々の祈念との関わりの中で成長していく過程を描いています。玲斗にこの重要な役割を命じたのは、彼の伯母である千舟(ちふね)です。彼女は、言葉では伝えられない深い想いをクスノキを通じて血縁者に伝える方法を教えます。
望まれずに生まれたと自虐的に捉えていた玲斗は、千舟との関わりを通じて救われ、人間として成長します。この成長は、番人としての役割を果たす中で更に深まり、結局は千舟自身も救済を得ます。このプロットは、物語の序盤から巧妙に構築されており、終わりに向かって全ての要素が見事に結びつきます。
著者は、人間の複雑さを巧みに描き出しています。私たち一人一人には、他人に知られたくない秘密が少なくとも一つや二つはあるものです。隠し事が一切ないような完璧な人間など存在しないのです。クスノキは、そういった隠れた思いも含めて、受け継がれるべきメッセージを血縁者に伝えます。これは、念を預ける者にも、それを受け取る者にも、深い覚悟が求められることを意味しています。
本書を読む中で、家族間での念のやり取りを通じて家族の重要性に気づかされます。自分がその立場になったらどうするかを考えると、その重さがより伝わってきます。
最後に、千舟と玲斗の会話のシーンを東海道新幹線で移動中に読んだ時のことを思い出します。周囲に誰もいなくて良かったと思うほど、感情を揺さぶられました。本書は、家族の大切さ、そして、望まれずに生まれたと感じても、誰かにとって必要な存在であるということ、すべての物事には理由があるということを教えてくれます。
参考文献:クスノキの番人