写真と動画が支配するコミュニケーション
- 記事
言葉という情報伝達手段は本当に素晴らしいと思います。人は社会的な生き物なので、他人との繋がりを断たれると生きていくことはできません。自分以外の他人と繋がっているためには、互いに情報を伝達して意思疎通を図る必要があります。その意思疎通を図る一つの手段として言葉があります。
言葉の素晴らしいところは、保存しておけることでしょう。例えば、言葉を文字に変換し、紙などに記しておけば、時間や場所を問わず情報が伝達できます。古くまで遡れば、古代文明の壁画に思いを馳せたり、古代の人たちが生きたその証を現代の我々に情報として伝えることができます。絵が発展してできたものが文字だとされています。
文字は「字」という姿かたちから意味を読み取ります。字を見ることで情報を伝達するため、視覚というセンサーに訴えかけられ、情報が伝達されます。文字による視覚情報は、伝達したいその根本となる何らかの情報を抽象化したもので、生の一次情報ではありません。文字を媒介にすると、一旦一次情報を文字という抽象的な姿かたちに変換し、その抽象的な文字というものから得られる視覚情報から、意味や情景をイメージする(具体化させる)工程が必要になります。一方、写真や映像ならダイレクトに一次情報を伝達できます。キリンという動物を言葉で説明するよりも写真を見せた方が早いのと同じで、百聞は一見に如かずということです。
さて、視覚以外にも情報をやり取りする手段として、嗅覚や聴覚、味覚、触覚といったいわゆる五感があります。それらの機関を使って一次情報を受け取ることができますが、言葉のように抽象化して、それぞれ視覚以外の五感で情報を発信することは難しくなります。それぞれ鼻、耳、口、皮膚は、主に情報を受信するセンサーの役割を果たします。
これらの受信センサーは、光なのか空気なのか水なのか、あるいはその他のものなのか、媒体によって情報を受信する手段に違いがあります。媒体によってさまざまな情報伝達手段がありますが、結局、視覚以外の五感情報も、言葉によって抽象化することで伝達することができます。文字による視覚情報か、声に出しての聴覚情報なのか。しかし、やはり人がキャッチする情報としては視覚情報が圧倒的に多いとされています。
日常の何気ない会話では、話し言葉(聴覚情報)に注意が行きがちです。大事な商談などでも相手に納得してもらうためには、練られたロジックで筋を通したトークが絶対だと認識されていて、抽象化された言葉による情報で理解を促します。確かに筋の通らない話をどれだけ聞かされたところで、特に高額な商品を買う理由にはならないでしょう。しかし、(論理破綻しているセールストークは論外として)実は聴覚情報以上に視覚情報の方が商品購入の意思決定に大きな影響を及ぼしています。
ノンバーバル、すなわち言葉を使わないコミュニケーションがあります。身振りや表情、視線、姿勢などによるものです。これら言葉を媒介しないコミュニケーションから得られる情報の方が圧倒的に多いとされていて、言葉による情報は情報伝達全体のわずか7%だという研究もあるようです。仮に言語情報を7%だとすると、残り93%がノンバーバルな情報です。「目は口ほどに物を言う」とは言い得て妙です。
ひと昔前なら、物理的に離れた人とのコミュニケーションは、言葉をその手段とするものが多かったように思います。手紙、ポケベル、電話、メールなどです。最近ではそれが変化してきていて、写真、動画、絵文字、スタンプなど、言葉以外の視覚情報をコミュニケーションの手段にする機会が増えたのではないでしょうか。
ふと美味しいラーメンが食べたくなったとします。それも、いつも行っている店とは違った味を試したくなったと仮定します。新しいラーメン屋を開拓するときに、インターネットが普及する前なら、リアルな人の口コミ情報しかありませんでした。ネットが普及し始めると、ブログへの書き込みを見たりして、新規のお店を開拓してきたと思います。今でもそれらの文字を媒介にした視覚情報で新規開拓することはまだまだ多いですが、最近では文字を媒介にした視覚情報だけではなく、InstagramやYouTubeを見て来店したという人はかなり増えてきているように感じます。
先日出張先で訪れたカフェにしても、隣に座っていたお客さんは、その店には初めての来店で、その店を知ったきっかけはYouTubeによる映像情報だったと、店員さんに話をしていました。情報伝達、すなわちコミュニケーションの手段は、写真や動画が主流になりつつあるのではないでしょうか。大事な商談やマーケティング活動では、理にかなった、水も漏らさぬロジックで固めた提案であることは最低限の必要条件で、それ以上に言葉以外の視覚情報が大きな影響を及ぼすと言えそうです。
参考文献:人は見た目が9割