その課題、誰のためのものですか
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今回も本の紹介です。米シリコンバレーのテック企業に対して、長年にわたってコーチングを行ってきたビル・キャンベル氏の話になります。
少し前まではGAFAと呼ばれていた超巨大企業がありましたが、今ではマグニフィセント・セブンと呼ばれ、7社まとめて語られることが多くなっています。そのうちの2社、グーグルとアップルの黎明期に、それぞれの創業者へコーチングを行っていたそうです。その影響力は、タイトル通り1兆ドル規模。もはや企業というより、日本の国家予算レベルの話です。
いきなりですが、課題のない会社はありません。もし本当に課題がなくなったとしたら、その会社はそう長くは持たないでしょう。なぜなら、課題とは目標と現実のギャップを、現場で実行可能なサイズに分解したものだからです。課題がないということは、目指すべき目標がない。もっと言えば、仕事の意味を理解していないということになります。言い換えれば、顧客が誰なのかを見失っている状態とも言えるでしょう。
会社の課題について、経営者と一緒に解決の糸口を考える機会があります。課題の性質によって、解決方法は当然変わります。どのようなアプローチがベストなのかを考えるのは、なかなか面白い作業です。自分ではこれはベストだと思って提案した解でも、他の人の視点から見ると必ずしもそうではない場合があります。人それぞれ、異なる経験や価値観をもとに意見を持っていて、どれも計算された論理に裏付けられていることも珍しくありません。論理的に考えてどれも正しい。ではどれを実行するのか。
この段階で初めて、決断は勘に委ねられます。ただし誤解してはいけません。これは「どれも正しい」と分かった上で迷った場合に限った話です。普段から勘ばかりに頼るのは、さすがに危険です。決断そのものは勘に頼らざるを得ない場面もありますが、決断に至るまでのプロセスが十分に考え抜かれていたかどうか。ここが何より重要だと思います。
論理的にベストな解を探すときに、一人の天才の判断だけに委ねるのは、あまり良い方法とは言えません。できるだけ適切なチームに考えさせるべきです。三人寄れば文殊の知恵、と言いますが、多くの場合、一人の脳みそより複数の脳みその方が強いからです。人の生き方は文字通り千差万別で、皆それぞれ違ったバックボーンを持っています。思考の切り口も違えば、見えている景色も違います。自分一人では思いつかなかった角度から光が当たることで、これまで見えなかった突破口が開けることもあります。どれだけ天才であっても、集団知にはなかなか勝てないものです。
ただし、チームという集団頭脳の思考は、チームや組織のために向いていなければ意味がありません。我田引水的な思考が入り込む余地を残してしまうと、せっかくの集団知も機能しなくなります。結局のところ、私利私欲は組織を内側から壊します。なぜチームのために仕事をするのか。レンガ職人の寓話と同じで、目的意識を共有できているかどうかが重要です。最適解を導くための指南役として、ビル・キャンベル氏の考え方を知っておいて損はないと思います。少なくとも、一人で全部決めなくていいという安心感は与えてくれます。
