環境利用と創造的過疎

  • 記事

今回は、『神山プロジェクトという可能性』という本をもとに地元徳島県の紹介をしたいと思います。灯台下暗しとはよく言ったものです。私は生まれも育ちも徳島県なのですが、神山での壮大なプロジェクトのことは恥ずかしながら本書を読むまで知りませんでした。我が古郷ながら大変失礼な話ですね。幼いころに神山森林公園に行ったことがあると記憶していますが、それがどんなところで、何をして遊んだのかは、今となってはほとんど覚えていません。次の徳島への帰郷時には、森林公園に限らず、もう一度神山を訪れようと思います。

ご存じの通り、日本は少子高齢化の煽りをもろに受けています。世界保健機関(WHO)などの調査によると、高齢化率は世界一位(2020年9月時点で28.7%)とのことです。高齢化へのスピードも世界一。日本は世界に先駆けて子どもが少なくなって高齢者が増えているという状況です。当然、徳島県もそうです。また人口そのものも減少しています。徳島県の人口規模は、2020年9月時点で約72万人。神山町に至っては4,600人ということになっています。県の人口は、東京23区と比べると、練馬区(75万人)、大田区(74万人)と同程度の規模です。

本書『神山プロジェクトという可能性』は2015年から2016年にかけて、東京銀座での関係者対談の様子を活字化した内容になっています。2016年当時で神山町民はおおよそ6,000人ほどだったようなので、わずか4年で2割以上減っていることになります。

神山プロジェクトは、地方創生の代名詞としてある意味モデル化されていますが、先のデータの通り、神山町で人口が増えているわけではありません。少子高齢化の悩みも深刻です。ではなぜモデル化されているのか。そもそも神山プロジェクトは、地方創生の定義が人口増加ということではありません。「創造的過疎」という言い方をしていますが、減るものを食い止めるのではなく、量は減っても質で勝負するという考え方にあるようです。現に、神山町には上場企業のサテライトオフィスがいくつもオープンし、新規企業も興っています。

立地を調べてもらえれば分かりますが、神山町は徳島市から車で40分程度の中山間地域。都会での戦いに辟易した人にとっては、県庁所在地の徳島市にすぐ出られる田舎ということで魅力に感じ、注目されています。コロナ禍真っ只中の時には、テレワーク率を競うような風潮もあり、わざわざ不動産価格の高い都心部に居を構えなくても、どこにいても仕事ができるという価値観が注目されました。

若者が都会に出る理由の1つとして、仕事を求めていくというものがあります。ところが、良くも悪くもコロナ禍のおかげで、その考え方が崩れてきました。もちろん、都会の利点は仕事の有無だけではないでしょう。東京や大阪をはじめとしたいわゆる都会には数多のメリットがあるのは事実です。しかし、こと仕事に関しては、必ずしも都会に出て行かなくともリモートでも行えるようになりました。

神山町のすごいところは、そういった市場環境を上手く使っている点にあります。地方が創生しないのは、国から予算を付けてもらうことでしか財源を確保できず、地方での自治が出来ないのが理由の一つと言われています。神山町は、国に頼ることなく人が集まりやすい土壌を作っている点が素晴らしいところです。

神山のやり方は、他所の地域でそっくりそのままの焼き直しは難しいかもしれませんが、目に映る現象だけではなく、活性化の要因を深く掘り下げていけば、他の地域でも活用できるところもあるはずです。企業経営しかり、成功事例を真似て、表面をなぞっただけの施策は上手くいくわけもありません。神山の事例を通じて、ヒントを得てもらいたいと思います。

参考文献:神山プロジェクトという可能性 ~地方創生、循環の未来について~