AIにハッキングされる前に

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今回は「21 Lessons:21世紀の人類のための21の思考」という本の紹介です。

自分自身について深く考える時間が、一日のうちにどれくらいあるでしょうか。あるいは一ヶ月や一年の間にどれだけの時間をそのために確保できているでしょうか。AIの台頭が著しい時代になりました。自分がどういった人間で、何をやりたいのかを考えて発見できなければ、アルゴリズムによる統治から逃れられないかもしれません。本書を読んで、そう感じました。

周囲の環境に流されているように見える人が多いと感じます。スマホの画面に夢中になっている人たちは、既にスマホとの主従関係が逆転しているのかもしれません。主体性を持つことの重要性がこれほど問われている時代は他にないと思います。自分の人生の主役にならなければ、他人の人生を生きているのと同じです。そして、その他「人」は近い未来ではAIなのかもしれません。

世界的ベストセラー「サピエンス全史」を読んだことがある人は少なくないでしょう。本書は、その著者である、ユヴァル・ノア・ハラリ氏の本です。「サピエンス全史」は主に人類の過去を扱い、続編の「ホモ・デウス」は人類の未来のことが中心に記されています。「21 Lessons」は、今の人類が直面する現代社会に関する内容になっています。

タイトルにもあるように21のテーマを通じて、人類の現状を詳しく分析しています。21のテーマとは、「幻滅1」「雇用2」「自由3」「平等4」「コミュニティ5」「文明6」「ナショナリズム7」「宗教8」「移民9」「テロ10」「戦争11」「謙虚さ12」「神13」「世俗主義14」「無知15」「正義16」「ポスト・トゥルース17」「SF18」「教育19」「意味20」「瞑想21」です。

内容の深さはもちろん扱っている分野の範囲も広く、読了には相応の労力がいるでしょう。要約すると以下のようになります。

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地球には現在70億以上(2022年11月15日に80億人に到達:世界人口白書2023)の人が暮らしていて、当然、70億の人それぞれ置かれた状況によって考えや行動が異なります。しかし、凄まじいテクノロジーの進化の前には、一部を除く70億の人のほとんどが同様の危機に直面することとなります。これまでのやり方は通用しない。対処法は誰にも分からず、幻滅1となります。
テクノロジーがもたらす問題をいかに解決していくか、それが求められています。放置すれば、テクノロジーは何十億の人間を雇用2市場から排除する可能性があります。
人の仕事はAIに取って代わられます。例えば、広告業の最も重要な顧客がGoogleの検索アルゴリズムであるように。人間からアルゴリズムへの権限移行は、自由3主義の終焉を意味します。
それは「デジタル独裁」とも称され、人の行動や判断がアルゴリズムによって左右される時代を迎えます。銀行融資の申し込み時には、申請者の人柄や信用度がビッグデータを用いて分析されます。自由が失われ、人間とテクノロジーの関係性が逆転します。自由主義の終わりは、平等4の終わりでもあります。
データの収集競争は既に始まっており、GoogleやFacebook(Meta)の目的は、単に広告を売ることではなく、人間の膨大なデータを蓄積することにあります。結果として、ごく少数のエリート階級と、大多数のホモ・サピエンスから成る下層階級に、社会が分かれる可能性があります。ネットワークが生活の中心となれば、ネットワークから切断された人々の生活は困難となり、保険の加入、雇用、医療サービスすら受けられなくなります。最も重要なのは、誰がこの大切なデータを管理するのかということです。それは政府や大企業ではなく、アルゴリズムによって管理される時代となります。アルゴリズムは、共有されるコミュニティ5の基盤として機能します。
デジタルコミュニティはオンラインとオフラインの境界をなくし、人間の目と指とクレジットカードを操作するのと同じやり方で、人間の身体を操作する時代が来ます。
従来の文明6間の対立は消え、バイオテクノロジーが人類の前に立ちはだかります。
一つの文明に属しているにもかかわらず、ナショナリズム7が勢力を増し、人々は国の利益を最優先として考えるようになってきています。
世界を統一する力としての宗教8も、その役割を果たせなくなってきています。普遍的な価値観やビジョンが求められている中では力不足です。
安全を求めて多くの人々が国境を超えるようになった現代、移民9が持ち込む多様な文化を受け入れることができる国は限られています。
テロ10は少数の人間しか犠牲にしないものの、大国の政策や方針を変えるほどの影響力を持つようになりました。恐怖をもって社会を揺さぶるテロの戦略は、国家が報復として強硬な手段を取ることで、結果的にテロリストの思惑通りの結果を生むことになります。
原子爆弾は、戦争11における勝利の定義を集団自殺へと変えました。人間の合理性では把握しきれないほど、世界は複雑化しています。
多くの宗教は謙虚さ12を失い、自らの価値を讃えながら、結局、自分が最も重要であると教えるようになってしまいました。
13の価値が希薄になり、信者たちの行動が中心となっています。その結果として、暴力や争いの原因にもなることがあります。飢餓時に神殿を訪れる者はほとんどいません。
世俗主義14もまた、世界を指導するにはまだ不十分です。人間は集団知の恩恵を受けて発展してきましたが、全てを他者の専門技術に頼るあまり、多くの人々は知識不足となっています。
この無知15を認識すると、何が正義16かさえ分からなくなり、人々は正義感を振りかざして自らの利益を追求するようになります。
真実を追い求める試みは失敗し、ポスト・トゥルース17の時代を迎えました。新聞、ウェブサイト、テレビ、人々など、情報の出所の偏見を問い質し、その正確性を確認する必要が出てきました。
人間が世界を支配しているのは、他の生物よりも効果的な協力体制を構築しているからですが。この協力を維持するためには、虚構を信じる必要があります。この観点から、SF18の役割は非常に重要です。多くの人々は、自分が実際には自分の心や脳の中に閉じ込められていることに気付いていませんし、その心や脳もまた、社会の中に閉じ込められています。この”マトリックス”から脱出する能力が、21世紀を生き抜くための必須のスキルとなります。
今日生まれた子どもたちに、どのようにしてこのスキルを教育19するのか。自分が21世紀の社会で何を成し遂げたいのか明確にしないと、テクノロジーによって人生の目的が決められ、その人生が支配されてしまうでしょう。
コンピュータがハッキングされる話は耳にするかもしれませんが、実際には、人間そのものがハッキングの対象となっています。自分が本当に何者なのかを定義し、人生の意味20を絶えず探求することが重要です。
そして、この世界や人生の真意を理解するためには、瞑想21を通じて自らの心を深く探る必要があります。それが、アルゴリズムが私たちの心を定義する前の重要なステップです。自分を理解しないままでいると、近い未来、アルゴリズムによって自らの存在すら感じられなくなる可能性があるでしょう。

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本書を読むことで、自分自身を深く見つめる機会が増えることを願っています。

参考文献:21 Lessons:21世紀の人類のための21の思考